アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎とは、かゆみのある湿疹が、慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。アトピー性皮膚炎では、皮膚の“バリア機能”(外界のさまざまな刺激や乾燥などから体の内部を保護する機能)が低下していることが分かっています。そのため、外から抗原や刺激が入りやすくなっており、これらが免疫細胞と結びつき、アレルギー性の炎症を引き起こします。また、かゆみを感じる神経が皮膚の表面まで伸びてきて、かゆみを感じやすい状態となっており、掻くことによりさらにバリア機能が低下するという悪循環に陥ってしまいます。
バリア機能の低下
皮膚は、表面の皮脂膜やその下の角質細胞、角質細胞間脂質などがバリアの役割を担っており、外からの物質の侵入や水分の蒸発による皮膚の乾燥を防いでいます。アトピー性皮膚炎では、これらの「皮膚のバリア機能」が低下しているため、外からの異物が容易に皮膚の中まで入りこみやすい状態になっています。「皮膚のバリア機能」はもともとの体質もありますが、皮膚を引っかいたりこすったりといった物理的な刺激や、汗、石鹸、化粧品、紫外線などによっても低下します。
天然保湿因子
角質層にある低分子のアミノ酸や塩類など。ナチュラル モイスチャーライジング ファクター(NMF)ともいわれ、水分をつかまえて離さない性質があります。
皮脂と皮脂膜
皮脂腺から分泌される脂(あぶら)のことで、汗などと混じりあって皮膚の表面をおおい(皮脂膜)、水分の蒸発を防ぎます。
角質細胞間脂質
表皮で作られ、角質細胞と角質細胞のすき間をうめている脂のことでセラミドもその一種です。角質細胞同士をくっつける接着剤の役割とともに、水分をはさみ込み逃がさないようにします。
バリア機能障害により、外界からの各種の抗原や刺激の経皮侵入が容易となり、アレルギー反応を引き起こしやすくなります。
また、バリア機能が低下していると、・黄色ブドウ球菌 ・ダニ ・カビ ・汗 ・ペットの毛 ・衣類などの外的刺激も受けやすくなります。この双方の働きにより、アトピー性皮膚炎が悪化する病態が作られます。従って、バリア機能を強くして、皮疹の悪化をきたさないようにすることが必要になってきます。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギー
かつては、食物アレルギーは、経口摂取により消化管で食物の抗原が体内に入り、食物アレルギーを獲得するという経口感作によるものだといわれていましたが、最近では、皮膚のバリア機能の低下した皮膚に、食物の抗原が皮膚内に入り、アレルギーを獲得するという経皮感作によるものだということがわかってきました。そのため、アトピー性皮膚炎の食物アレルギー発生の予防には、スキンケアの重要性、バリア機能回復が注目されるようになったわけです。
アトピー性皮膚炎治療の3つの柱
アトピー性皮膚炎の治療は、①スキンケア ②薬物療法 ③悪化因子の対策の3つが治療の基本となり、どれも欠かすことができません。正しい治療を行うことで症状をコントロールして、湿疹などの症状が出ない状態にすることができます。
標準的治療の①スキンケア(皮膚の清潔を保ち、うるおいのある状態を保つこと)②薬物治療(皮膚の炎症を抑える治療)③悪化因子の対策(環境中の悪化因子をみつけ、可能な限り取り除くこと)の三本柱を中心にした治療により、「寛解導入(症状を改善させ湿疹のないすべすべのお肌にすること)」を行います。
(1)スキンケア
- 入浴・洗顔の注意を
熱いお湯やシャワーは皮膚の乾燥を強くします。36℃から40℃が最適な温度です。石鹸は保湿成分の配合された乾燥肌用の低刺激性のものを使用してください。ボデイシャンプーは界面活性剤が多く、皮膚を乾燥させるものが多いですから、なるべく使用を控えましょう。 - 保湿
入浴後、洗顔後30分~1時間の間に急速に肌が乾燥していきます。30分以内に保湿剤を塗布して肌を保護してください。
(2)薬物療法
ステロイド外用剤
タクロリムス軟膏
JAK阻害薬
皮膚の奥でおきているシグナル伝達を遮断する外用薬です。2歳から使用できます。
副作用が比較的少なく長期にわたって炎症を抑えることができる外用薬です。
内服治療
抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤
抗アレルギー薬を服用しておくことで、それらの刺激物質が付着した際にひき起こされるアレルギー反応・かゆみを効果的に抑えてくれます。掻くことでさらにバリア機能を破壊し、さらにかゆくなるという悪循環を引き起こしますので、内服してきちんとかゆみを抑えておくことはとても大切です。
デュピクセント注射薬による治療
アトピー性皮膚炎を引き起こす主役は、Th2というリンパ球です。
そのTh2リンパ球から分泌されるいろいろなサイトカインが皮膚のバイア機能の低下や、炎症の促進を引き起こし、その結果アトピー性皮膚炎が発症すると考えられています。
デュピクセントはサイトカインのうちIL-4とIL-13をブロックすることで、アトピー性皮膚炎の発症や増悪を押さえることができます。
また、Th2というリンパ球に分化する過程を抑制することもできます。
副作用は、注射部分が腫れる、かゆくなる以外にアレルギー性結膜炎、めまい、発熱などの副作用が報告されています。また、使用条件は、15歳以上の人、妊娠中、授乳中の方は使用できません。投与にあたっては条件が定められていますので、治療をご希望の方は一度ご相談下さい。
(3)悪化因子の対策
アトピー性皮膚炎の状態を把握する手がかりとして、血液検査を行います。アトピー性皮膚炎に特有の血液検査として、TARCという皮膚の細胞から作られる物質の量を検査するものがあります。これは、湿疹が悪化すると高くなり、良くなると低くなるという特徴があり、アトピー性皮膚炎の状態を表す指標として用いられます。また、特異的IgE抗体検査を行うことにより、花粉やダニやカビ、動物の毛などの悪化要因がどのように関わっているかを検討し、悪化因子に対して対策をとることができます。また、肌着は綿素材のものを使用し、汗をこまめにとるなどの対策も必要になります。
皮膚、腸管粘膜のバリア機能を高めることが最も大切です。そのためには、バリア機能を高めるための栄養素が最も大切です。タンパク質、鉄、亜鉛などのミネラル、ビタミンB2、B6、Cなどの摂取が少ないと、皮膚や粘膜は弱くなります。また、気道粘膜や腸管粘膜も弱くなりアレルギーを獲得しやすくなります。母乳から栄養を受けている時期は、母親の食事の影響を受けますので、母親の栄養状態がとても大切になります。また、幼児期までは、腸管の粘膜も弱く、十分に栄養素が吸収されていないことが多いと言われています。また、大人でも、不規則な生活で栄養素の吸収が十分でない人が多くなっているように感じます。腸管や皮膚、粘膜を強くする栄養療法、腸を育てる漢方治療はアトピー性皮膚炎の治療にとても有効です。
(4)寛解導入後の治療
治療前に症状を繰り返しやすかった方は、「寛解導入」後も引き続きプロアクティブ療法(症状が良くなったあとも計画的に抗炎症薬を塗って悪化を防ぐ治療法)により「寛解維持(湿疹のないすべすべのお肌を維持すること)」を行います。薬の使用間隔を患者さんの状態に応じて調整しながら減らすことで、薬の副作用を避けながらこの状態を維持できるようにしていきます。
治療を開始すると、多くの方はすぐに見た目がきれいになります。しかし、目に見えない皮膚の下の炎症は続いていて、この時点で治療をやめてしまうと、すぐに湿疹が再発してしまいます。治療のポイントは、ステロイド外用剤でしっかりと皮膚の炎症を抑えたあと、すぐに治療をやめずに、プロトピック軟膏などの使用に切り替え、その後徐々に塗らない日を増やしていくことで、炎症を抑えた状態を維持することです。
うえだ皮膚科内科 高杉院
当院では、内科、漢方内科、皮膚科と複数の科を併設しており、各科固有の疾患に対する治療だけでなく、疾患によっては 科を超えて協力することによって、診断と治療の向上に寄与し、より幅の広い治療がきることを目標にしています。内科では、一般内科疾患全般を診療し、漢方治療を採り入れることによって、皮膚疾患や婦人科疾患、小児疾患など幅広い疾患に至るまで対応しています。皮膚科では、一般皮膚科分野に加え、小手術も行っています。
